ブルー・バード - 1/2

 開けた宝箱のなかからこぼれだす金銀財宝に、思わず感嘆の息が漏れる。世界各地を巡って幾多もの旅を重ねてきたけれど、これほどの煌めきは幾らも出会ったことがない。それほどまでの輝きに、旅人はともに宝箱の蓋を開いた仲間と思わず手を握り締めあった。
「すっ、げえ……!!」
「うん……!!」
 世界の美しい光景は幾ら重ねても美しい、けれどこの輝きはまた格別だ。宝箱の中身へ恐る恐る手を伸ばし、それが幻影ではなく実在を伴っていることを指にかかる重みで実感する。旅人たちはうん、と頷きあうと、その戦利品を厚くて丈夫な布袋へと流し込んだ。
「さ、帰ろう」
「おうっ!」
 そしてふたつに分けた布袋をそれぞれ肩に担ぎ、難攻不落にも等しかった秘境をあとにする。解除された仕掛けや罠を指差して喋りながら冒険の余韻に浸る心地好さに瞳を眇め、最後には狭く小さな入口に無理やり身を捻じ込ませるようにして陽光の下へ。ただの岩陰にしか見えない窪みがあれほど広大な秘境に繋がっていたなんて、いったい誰が気付くだろう。だからこそ、この財宝たちは今日まで守られていたのだろうけれど。
「今日は本当にありがとな、旅人! やっぱりお前はすごいよ、こんな宝ものを手に入れたなんて初めてだ!」
 ふたりの身体とふたつの布袋を窪みから引っ張りだし、袋の底が破れていないことも確認してから、ふたりでほっと笑いあう。先ほどまでは勇猛果敢に魔物と戦っていた手がいまは布袋にこわごわと触れているものだから、旅人はつい笑ってしまった。
「お礼を言うのは俺のほうだよ。ここの情報はベネットが見つけたものだったんだから」
「そんなことない。お前がいなきゃ、きっとここもめぼしいものがない秘境だったぜ」
 モンドの冒険者協会へ顔を出したところでベネットと出会ったのは偶然で、彼が秘境の情報を手に入れたところだったのも偶然だ。更に言えば、一緒に冒険へ行かないかと誘われたのもまた偶然。彼の得た情報はその時点で確定していたのだからベネットが金銀財宝と出会うのも確定していただろうに、ベネットはそう受け取らない。だから旅人は笑い顔の眉を少し下げた。これはベネット目がけて降り注ぐ不運がもたらした、小指の爪の先ほどの不幸だろう。
「っていうか、俺までお宝もらっちゃっていいの?」
「もちろん! 旅人がいてくれたから秘境の仕掛けだって解けたんだし、そもそも宝は仲間で山分けするものだろ」
 それでも彼は屈託なくそう笑うから、不運も不幸も彼の伸びやかでおおらかなこころをへし折ることは出来ないのだ。旅人は「じゃ、有難く」ちゃっかり笑って布袋のひとつを抱え直し、密やかながらこころに決めた。もしもベネットへ本当に不幸が降り注いだときは、この金銀財宝で以てその苦難を取り除かんと。
「さて、あとは帰るだけなんだが……なぁ、旅人」
「なに?」
 そうと決まれば、この宝ものは安全なところに隠しておかなければならない。北国銀行へ頼るわけにはいかないからモンドの冒険者協会か、もしくはいっそ璃月で凝光にでも相談して金庫を貸してもらおうか。そんなことを考えていた旅人は、ベネットの呼びかけにはっと顔をあげて首を捻った。彼は珍しく、少し悩んだような、照れたような、そんな表情を浮かべている。
「……よかったら、このあともちょっと付き合ってくれないか?」
 紹介したい友だちがいるんだ、と。
 はにかむベネットの言葉に、旅人は一も二もなく頷いた。友の友との邂逅はこころ躍るものであることを、旅人はよく知っている。