原神

夜の砂間、黄昏の海

 すべてを終えて『熾光の猟獣』の拠点へ戻ったとき、既に夜は深く更けていた。アジトの内側は静寂に伏しており、ひかりはディシアの手元を照らすカンテラのみ。身内と呼ぶに相応しい相手の誰とも顔をあわせていないことへの言い知れぬ乾いた心地、けれどそれ…

プリズム・デザート

 とぷり、井戸の底ほど深い夜。熱が溶けて肌を伝い、水気を含んだ愛情が、じゅん、と身体の奥で小さな音を立てる。たったひとりでは生まれないもの、あなたがいないと生じないもの。じゅくじゅくとした愛情に揺蕩いながら、わたしを抱き締める熱い腕に手を伸…

金継ぎの華

 夕暮れ前の花見坂は、馴染み深くもほの切ない。傾きかけの太陽に照らされた屋根瓦は郷愁の前触れに光り、並んだ軒からはその合間を縫うようにして香り立つ前の湯気があがる。日暮れ前、夕餉の香りが広がる前の、賑わいとぬくもりの真ん中。その僅かな時間は…

熾った種はカンテラへ

 そういえば、とその声をあげたのは、いまから思い返してみれば果たして誰であったのか。トーマにとっては仕事の一部でもある夕餉の支度の最中、縁側で幾人かが集まって絹さやのすじを取っていたときに、そんな声が漏れたのだ。 九条鎌治と柊千里の婚姻騒動…