原神

花びらは砂糖に埋めて

 丁寧な見送りを受けるとともに重厚な扉を開き、煌びやかな『ホテル・ドゥボール』から夜の緞帳が下りて久しいフォンテーヌ廷へ足を踏みだす。流れる空気はしっとりとしていながらも僅かな冷たさを孕んでいたから、リオセスリは自らの右腕へ身を寄せる女性の…

真珠は海に、星は夜空に

▽ 細やかに敷き詰められた石畳をようやくすべて磨き終え、折り曲げていた身体をようよう引きあげる。全身に痛みと倦怠感、大きく息を吐きだして夜空を仰ぐ。見あげたとて網膜が軋むことのない、微かなひかりが散りばめられているだけの濃紺。海底によく似た…

宝石をさがす旅

「。しばらくの間、君に暇を与えようと思う」 主君からの言葉に、耳を疑った。けれどこの身体は、他ならぬ主君から傾けられるものだけは取り違えることがない。それならばと、次に自らの頭を疑った。だが都合の悪い幻聴が内から生まれいずるとも考えられず、…

ブルー・バード

 開けた宝箱のなかからこぼれだす金銀財宝に、思わず感嘆の息が漏れる。世界各地を巡って幾多もの旅を重ねてきたけれど、これほどの煌めきは幾らも出会ったことがない。それほどまでの輝きに、旅人はともに宝箱の蓋を開いた仲間と思わず手を握り締めあった。…

私の小鳥

 戦禍の深手が未だ色濃く残る土地の視察に向かい、帰りに立ち寄った望瀧村でひとびとの声に耳を傾け、それと同時に提出される報告書を腕に抱く。そうして心海が珊瑚宮へ戻ったときには既に夜が世界へ暗い緞帳を落としており、人気の少ない回廊でささやかな吐…

神さまのくれたさよなら

 璃月の大通りは朝一番であろうと賑わっているのが日々の在りようであり、しかし今日に限ってはそれも幾らかおとなしい。ひと匙ぶんの静けさを切なく思うのは、自らが璃月の民であるからなのだろう。感傷未満の思いをくちに含みながら分かれ道に差し掛かった…

機織り、過日より

 ううん、と背伸びをしてもなお、本棚の最上段にはぎりぎり辛うじて手が届かない。より多くの書物を収納するのが本棚の本懐ではあるのだろうが、ひとの手が届かなければ結局のところその収納に果たしてどれほどの意味があるのか。は誰に向けることも出来ない…

錦織の傘を差す

 ひとに満ちた璃月港は、いつだって活気に溢れている。それが燦々と陽光の降り注ぐ昼下がりであれば尚のこと、そこかしこで商人と客のささやかな賑わいが生まれていた。 さてそんな璃月港の小路を通りかかった旅人は、ふとその先の喧噪に気が付いた。開かれ…

花のわだち

 港で受け取った荷で両腕を満たし、軽い足取りで自宅へ戻る。小さな工房を孕んだ、ささやかだが満足のいく仮住まい。場所を与えられて間もなくは恐縮したしそわついてもしまったが、三日も住めばそこが最たる都となる。故郷の稲妻と並ぶ安寧の場所はもう目前…

戦場の金糸雀

 日も暮れて疾うに経ち、戦の気配も遠退いた頃。珊瑚宮にて報告を済ませ戦線維持のための策を預かったのち、望瀧村へと足を向ける。小さな村には抵抗軍の拠点が設けられており、ささやかな造りの門を潜れば見張り番を務める兵士から敬礼を向けられる。それに…

ロマンティック・ナイト

 ベルを鳴らして扉を開けば、喧噪を縫うようにして刺さる視線。その瞳の不躾さにも慣れてしまったけど、うんざりする気持ちが消えないわけじゃない。この国へ干渉を試みているのはファデュイという組織であって、私個人じゃないというのに。顔色を覗き見るよ…

夜漠におやすみ

 地を踏み締める足の下からは砂の擦れる感触、外套から覗く景色は轟々たる砂礫の嵐。生まれてからずっとそこにある光景には、今更なにがしかの感慨を抱くこともない。吹きすさぶ砂粒に瞳を潰されないようそれらの間を掻い潜る術は、歩くと同時に出来るように…