02:反りが合わない刀もある - 1/3

 定めた業務時間が終われば、この本丸においては翌日の業務開始までが自由時間。夕食は全員で食卓を囲うことがすっかり定番化したけれど、正直それも自由参加だ。まあその食卓に便乗すれば自分で食事を用意する必要がなくなるので、そりゃあ誰もがそこに集うわけなのだが。
 夕食も終わったあとの完全なるフリータイム、自分の定位置で溜息をつく。審神者業を始めてから日が浅いので毎日がトライアンドエラーではあるのだが、今日は個人的に初日以来の大失態。反省会は極力自室で勝手にやっているのだけど、今回ばかりはそういうわけにもいかなかった。
「ん? どういたがね」
「吉行」
 洗い物当番をしていた国行よりももっと遅くまでキッチンに篭もって、明日の朝ご飯の下準備をしていた吉行を待っていたのだから。彼は特にいつもと変わらない顔で首をかしげる、それが一層居た堪れなかった。わかっている、これは吉行に気を遣われている。
「今日のこと、謝ろうと思って」
「ああ、ありゃあ主がせいやないきに。ほんに、おんしぁまっこと真面目じゃのう」
「作為がなかったとしても、考え無しだったことは事実でしょ」
 少し考えれば出来た配慮が出来なかった、そのせいで現場を混乱させた。それは充分、私の失態だ。結局吉行がそのフォローをする破目になったのだから、謝るのは当然のこと。ごめんと言えば、えいき、と軽く笑われた。
「……それに、あれはあいたぁも悪いがよ。ありゃあわしらが務めに反しちゅう」
 けれど、ふっと笑顔を落とした吉行が、いつになく冷たい声でそう呟くものだから。
 やっぱり悪いことをしたと、そう思うのだ。
「……やっぱ、あわない?」
「んん、まぁ、そうじゃな」
 基本的に歯切れのいい吉行が言葉を詰まらせるなら、それ自体がもはやイエス。まぁあわないだろうとは思っていたから、そうせざるを得なかったとはいえ、そのふたりを同じチームにしてしまった罪悪感が胃にもたれた。
「あのさ。あわないなら、無理やり歩み寄らなくても別にいいからね」
「……そら、めったなこと言いゆうが」
 それでも悲しいかな、あわない相手とも一緒にやらなくてはいけないのが仕事というもの。特にここは退勤すれば赤の他人になれるわけではない、業務時間外でも共同生活を送っているのだから険悪になりすぎては周囲にも悪影響が生まれてしまう。
 だから、せめて。言ったら吉行はずいぶんと素直に驚いたから、それがおかしくて笑ってしまった。
「仕事中は任務に支障が出ない程度にコミュニケーション取ってほしいし、意思疎通を図ることは怠らないでほしいけどね。それ以外のところで、無理に仲良くする必要ないと思うのよ。そういうのって、結局拗れて余計におかしくなるのが関の山なんだから」
 理解と納得のない、上っ面の和解なんて結局すぐに破局する。それならいっそ、お互いを価値観の違う相手と認識してぶつかったり距離を取ったりするほうが健全だ。そこに明確な区切りがあるのならともかく、ここでは業務と日常生活が完全にシームレスな状態なのだから。
「とことん話をつけたいならそれでいいし、いったん距離取ったほうが気楽ならそれでもいい。変に気負って無理しなくていいから、ってこと」
 吉行は優しい。誰のこころも汲み取って、誰とも歩み寄って、誰と誰の手も繋がせる。でもそれは、彼の苦しみのうえに成り立っていいものじゃない。言えば吉行はしばらく黙ったあと、いままで見たこともないような顔で頷いた。
「……ありがとうの」
「いいよ。普段は吉行のほうが周りに気を遣ってくれてるんだから」
 困ったような笑い顔ではあったが、まぁ、悪いものではないと思う。